糖尿病とスティグマ
最近、糖尿病におけるスティグマが話題となっています。スティグマとは“不名誉な烙印を意味しますが、ある特定の人や集団がいわれのない差別などで社会的不利益を受ける場合などに使われます。近年糖尿病治療の進歩があり、血糖管理ができれば、糖尿病でない人と変わらない生活が送れる疾患であるにも関わらず、糖尿病になるとさまざまな合併症を発症する、食事・運動療法ができない人、といった糖尿病に悪いイメージをもつ人により、糖尿病であることを隠したり、治療する機会を逸したりなどの不利益を被っています。
日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は合同委員会を開催し、糖尿病をもつ人のスティグマを減らす運動(アドボカシー活動)が始まっています。その活動の中心は、医療現場で習慣的に使われることばの中で、スティグマが生じうる糖尿病医療用語の見直しです。例を挙げますと、「療養指導」という言葉があります。「療養」の概念は、体を休めて健康の回復を図ると いう意味を持つので、糖尿病にはそぐいません。また、「指導」という用語も、教育するという意味合い以外にも、反則に対する注意勧告、という意味でも用いられ、これらは明らかに、糖尿病に対する不正確な情報・知識に基づいていると考えられます。従って、「療養指導」は、「治療支援」に変更する予定になっています。また、糖尿病という病名も、変更されます。「尿」、という言葉は、やはり清潔ではないですし、「病」、という疾患は、暗いイメージが付きまといます。現在の多くの疾患名が、「病」ではなく、「症」で統一されているという背景もありますので、糖尿病を、「ディアベテス」という病名へ変更することが提案されています。
これらの用語の変更は、長年、糖尿病診療に携わってきたスタッフには、なじみがなかったり、唐突だったりと、容易に受け入れがたい面もあろうかと思いますが、やはり長い目で見ると、糖尿病のある人のスティグマの問題解決という目標に向かって、我々自身が今、決断しなければならない時期に来ているのではないかと感じています。