世界初の持続型GIP/GLP-1受容体作動薬
本年4月18日に発売した2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)は、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド様ペプチド-1(GLP-1)、これらの受容体に対して、単一分子として作用する世界初の持続型GIP/GLP-1受容体作動薬です。本剤の構造は、ヒトGIPペプチド配列をベースとして、GLP-1受容体にも結合するように改変されたもので、インスリン分泌を促進するだけでなく、中枢に働きかけて食行動の変容や基礎代謝を亢進させることで体重を減らし、結果的に血糖を改善させます。本剤は1回使い切りのデバイスで、デュラグルチド(商品名:トルリシティ)と同様、オートインジェクター型注入器(アテオス)の週1回皮下注射となります。週1回2.5mgが開始用量で、維持用量は5mgですが、さらに2.5mgおきに増量でき、最大15mgまで使用可能です。
GLP-1受容体作動薬はもう10年以上、2型糖尿病治療薬として使用されてきましたが、GIP受容体作動薬もGLP-1と同様に開発は進んでいたにも関わらず、なぜ、世に出てこなかったのかと言うと、高血糖下ではGIP受容体の発現量が抑制されているため、GIP単独では糖尿病治療としての有効性は低かったわけです。そのため、GLP-1受容体へも同時に作用するように遺伝子改変が行われました。GLP-1は、視床下部に作用して食欲抑制作用を有しますが、一方、GIPは、脂肪細胞に作用してレプチンという抗肥満作用を有するホルモンの分泌を促進します。そのため、GIP/GLP-1受容体作動薬は、GLP-1単独よりさらに強力に体重を抑制します。また、GLP-1は、その作用を高めようと用量を増やしすぎると、悪心・嘔吐の有害事象が出てしまうため、増量には限界がありました。しかし、GIPは、このGLP-1の嘔吐への作用を打ち消す働きがあることがわかっており、そのため、GIP/GLP-1受容体作動薬の思い切った増量が可能になったわけです。日本人のデータで、最大の15mgまで増量しますと、平均約10kgもの体重減が達成されますので、今までの2型糖尿病治療薬の中で最も効果的に体重を減らすことが期待できる薬剤ということになります。