GLP-1受容体作動薬の現在
2010年に本邦で発売されたGLP-1受容体作動薬(以後GLP-1)ですが、2020年くらいまで、市場の拡大は見られませんでした。使用したものの、コストに見合う効果が得られない、という意見が大勢を占め、多くの先生方は、使用を断念してしまったようです。
その理由は、GLP-1の本来の目的が十分理解されていなかったのです。確かに、GLP-1は、インスリン分泌を促進する作用で血糖を下げます。しかし、インスリン分泌を促進する薬は、SU薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬など、GLP-1よりももっと安価な内服薬があるのです。
GLP-1の本来の目的、それは、脳中枢に作用して、食行動を変容させることです。それには、高用量投与しなければならないにも関わらず、日本では、海外の半分の用量しか認められませんでした。半分の用量でもインスリン分泌は十分促進します。しかし、若年肥満の患者さんには、ほとんど食行動への影響は見られなかったのです。</>
しかしようやく一昨年から、リラグルチドが海外の1.8mgまで使用可能に、さらに、昨年から、セマグルチド(週1回製剤の注射、及び経口薬)が、海外と同用量で使用できるようになり、ようやく本邦においても、肥満糖尿病治療の時代が到来した、と言えましょう。
海外用量であれば、ほとんどの日本人に対して、体重減少作用、それに伴う血糖降下作用が期待できますが、それでも、高度肥満の患者さんでは、不十分な症例も経験します。海外ではそのような高度肥満者に対して、GLP-1をさらに増量しようという動きもありましたが、残念ながら、用量を増やしすぎると、悪心・嘔吐の有害事象が出てしまう問題点が浮上します。そこで来年から登場するのが、GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)です。
GIPは、GLP-1の嘔吐作用と拮抗する制吐作用を有するため、それほど強い嘔吐が出ないように工夫されています。高用量のGLP-1で食欲をそぎつつ、その嘔吐をGIPで防ぐというものです。
この新たな薬剤が、肥満糖尿病患者さんの食事療法を維持することを容易にし、食行動に伴う心理的負担を取り除いてくれるかも知れません。