高齢者糖尿病の血糖コントロール目標
日本糖尿病学会は、日本老年医学会との合同委員会を設け、高齢者糖尿病患者さんの年齢、健康状態、治療内容に合わせた血糖コントロール目標(下記図参照)を作成しました。本年の日本糖尿病学会総会で発表された高齢者糖尿病を対象とした目標では、熊本宣言2013 におけるHbA1c7%未満を目標とすることを基調としながらも、低血糖を起こさない治療を最優先とするため、ADLなどに応じて、7.0%〜8.5%まで目標を緩和して上方修正、さらに低血糖を生じうるSU薬やインスリン治療をしている患者さんに限っては、6.5%〜7.5%といった下限値を設定したことが注目すべき点であります。
いくつかの臨床試験において、低血糖は、認知症の発症や進展に大きく影響を及ぼすことが分かってきており、HbA1cをどんどん下げることで、低血糖と背中合わせになるような治療は、高齢者糖尿病患者さんに適切な治療でないと判断されたわけです。
あくまで個人的な感想を述べさせていただきますと、今回の高齢者糖尿病の治療目標のガイドラインはやや難点があり、1、複雑すぎる、2、諸外国の目標よりもやや厳しすぎる、と思います。日常臨床において、糖尿病治療に携わる誰しもが理解しやすく、すんなり頭に記憶されるべきものでなくてはならないので、当クリニックでは、元気な70歳代の患者さんはHbA1c7.5%未満、それ以外は概ね8%未満、インスリンやSU薬使用中の患者さんは下限6.5%、これくらいの簡便な設定が良いのではと考えております。
いずれにせよ、高齢者糖尿病において、今後長い時間の中でゆっくり進行していく血糖依存性の高い細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)には多少は目をつぶり、むしろ目の前で起こりうる低血糖を防ぐ治療を重要視することは、実臨床に即した有意義な改訂であることには間違いないと思います。
◆高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)
治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、
併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。