Q&A 第56回〈DPP-4阻害薬の使い分けについて〉
DPP-4阻害薬は、消化管ホルモンであるインクレチンの作用を高め、血糖依存性にインスリン分泌を促し、高血糖を是正するお薬です。1日1回から2回の服用で、低血糖や体重増加などを来しにくいために、比較的使いやすい経口薬として、現在、200万人以上の2型糖尿病患者さんに頻用されています。6番目の経口血糖降下薬として、2009年12月に発売されて以来、これまでに既に7種類8製品(ジャヌビア/グラクティブ、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリア、スイニー、オングリザ)が登場してきました。ただ、長期間にわたり使用されている薬剤ではないので、安全性や有効性を確立させるまでにも、もう少し時間がかかりそうですし、個別の種類の薬の違いなどもまだまだわかっていません。
このような状況で、これらのDPP-4阻害薬をどう使い分けるか、あくまで私的な意見を述べてみたいと思います。正直申しますと、単剤の投与であれば、血糖値の改善に驚くほどの差はないので、1日1回投与の場合では、患者さんの負担を考慮して、薬価がなるべく安いDPP-4阻害薬を選択するケースが多くなっています。しかし、CKD(腎機能障害)を伴う2型糖尿病患者さんには、薬剤の排泄経路が腎臓でない、すなわち肝排泄型のDPP-4阻害薬を使用するようにしています。なぜなら、腎機能が障害されている場合は、透析導入の回避、心筋梗塞の発症の抑制、低血糖の予防などに配慮しなければならないからです。また、インスリンと併用する場合や、肥満患者さんにおいては、薬剤間の血糖降下力の明らかな違いが出てきます。このように、適切なDPP-4阻害薬を選択することで、より血糖値を改善させたり、複数回のインスリン注射回数を減らせたりすることを可能にできる患者さんも多くなってきました。
DPP-4阻害薬が登場してから、医師や薬剤師向けの糖尿病に関する講演会の演目にパラダイムシフトというフレーズが入ったものをずいぶん見かけるようになりましたが、正しく、2型糖尿病の薬物療法は、今まで以上に、複雑で奥深いものとなっており、薬剤の使い分けが大きく患者さんの将来を左右するような時代に入ってきたと実感しています。