Q&A 第30回〈糖尿病になるとがんにかかりやすいのでしょうか? 〉
糖尿病患者さんは、健康な人に比べ、悪性腫瘍(がん)にかかりやすいという報告が確かにあり、程度としては、1-3%くらいのリスク上昇と言われています。男性では肝臓がん、胃がん、膵臓がん、大腸がん、女性では、卵巣がん、肝臓がん、胃がんで発病率が高いがんとして挙げられています。糖尿病ががんの発症を増やす機序については、はっきりしたことは分かっていませんが、まず、血糖値が高いと免疫機能が低下することが、その原因ではないか、と言われています。概ね、血糖値が300mg/dlくらいを越えると、白血球の動きが悪くなったり、抗体を作る能力が落ちてきたりします。そうすると、細菌やウイルスの侵入を防ぐのみならず、我々の体にできたごく一部のがん細胞を除去する能力も落ちてきます。2番目の理由としては、インスリン自体が、実は、細胞を増殖させる能力があるのです。糖尿病患者さんは、インスリンの利きが悪いので、しばしば血中のインスリンは高めになりますし、また、インスリン治療などで、非常に高い血中濃度を維持する場合があります。糖尿病患者さんのなかでも、インスリン治療中の患者さんで、特にがん発症率が高い、などというデータもあります。また、一部の経口薬にも、がんのリスクを高めるというデータも最近出ています。しかし、これらのデータがあっても、インスリンや経口薬で血糖値を下げることによる糖尿病のさまざまな合併症を抑制するメリットは、がん発症のわずかなデメリットを大きく上回る、ということですので、このような治療は現在も行われているわけです。
従って、糖尿病患者さんにとって、良好な血糖コントロールを保つことも確かに重要ですが、がんは、日本人の死因第一位であり、糖尿病患者さんでは、その発症率が高いわけですから、早期発見、早期治療のため、定期的ながん検診を受けることは非常に重要です。糖尿病外来に毎月かかっているから大丈夫だ、とは決して思わず、何か気になる症状があったら、それを主治医に伝えること、また、企業や自治体のがん検診を必ず受診するよう、心掛けてください。