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糖尿病は放っておいて自然に治る病気ではありません
今や国民病とも称され、糖尿病患者数は予備軍を入れると1,000万人にものぼると言われています。もともと日本人は、遺伝的にインスリンを分泌する力が強い民族ではありませんし、さらに食生活の欧米化や交通の利便化による運動不足など、日本人の生活習慣が大きく変化したことが、糖尿病患者激増の大きな要因とされています。糖尿病は自覚症状がなく進行するため、糖尿病を指摘されてもなかなか医療機関を受診しなかったり、また受診しても、途中で治療を中断してしまったりする患者さんが多いのも糖尿病患者の傾向です。しかし、何もせずに放っておけば、下肢切断、中途失明、透析治療などの様々な合併症を引き起こし、生活の質を大きく落とすことになります。糖尿病の三大合併症と言われる細小血管障害、すなわち、神経症、網膜症、腎症は、悪化すればそのような悲しい事態も起こり得るのです。また、高血糖は太い血管障害にも関与し、命に関わる危険性がある心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを約3倍に高めます。
また最近は、糖尿病患者も高齢化し、高齢者特有の合併症、すなわち、認知症、あるいは筋肉が減ってしまうサルコペニアのために施設に入らなければならない患者さんが増えています。これらの疾患は老年症候群と総称され、糖尿病患者では、2倍以上のリスクがあると言われています。また、高血糖は、我々の免疫機能を低下させるため、コロナなどの肺炎で命を落とす糖尿病患者さんも非常に増えています。糖尿病治療の目的は、それらの糖尿病で起こしやすい合併症の発生や進行を阻止し、健常者と何ら変わらない人生を送ることなのです。
糖尿病治療の最前線
現在までの薬物治療は、経口薬・インスリン治療ともに、とにかく血糖値を下げるということを目標としてきた治療と言えます。もちろんそれは大切なことですが、治療によって体重が増えたり、低血糖を起こしたり、膵臓の細胞に負担をかけるなど、残念ながら糖尿病の病態を回復させるには程遠かった治療と言えるでしょう。しかし、近年登場した治療薬は、体重、低血糖の頻度を減少させたり、衰えた膵臓の細胞の機能を保持したりと、糖尿病本来の病態改善を主眼に置いた治療に変わりつつあります。それは、非常に画期的なことで、糖尿病治療の新しい時代の幕開けと言えるかもしれません。薬の種類もどんどん増えていき、現在、内服薬だけでも9種類、その配合剤などを含めれば、数えきれないくらいの種類に上ります。また、GLP-1受容体作動薬、インスリン薬なども遺伝子組み換え技術によって様々な特徴を持った新薬が次々と開発されました。これらの注射剤の打つタイミングをどうするのか、何単位を打つのか、などを含めれば、それこそ、糖尿病の薬物治療は、大きなキャンパスに絵を描く、千差万別と言えましょう。
当クリニック糖尿病内科では、それら最新の糖尿病医療に対応しつつ、かつ、患者さんの病態やニーズに真摯に向き合いながら、個々の患者さんにとって最適な糖尿病との付き合い方を提示することで、”糖尿病だけど元気”な楽しい人生を過ごしてもらいたいと考えています。
心のケアを大切に、何十年先の未来を見すえた治療を
血糖値をコントロールするために、運動療法や食事療法、そして薬物療法を行います。時には食事療法などがうまくできず、悩むことも多いと思いますが、決して厳格な食事療法が正しいとは考えていません。厳格な指導は時にストレスとなり、返って、悪い結果を生むことさえあります。当院では、本人にストレスを与えることなく、持続可能な生活習慣の改善を目指します。これは、医師はもちろん、看護士、管理栄養士など、スタッフ全員で悩みの解決を目指し、また前向きな気持ちで治療が行えるよう、支えていきたいと思っています。
糖尿病は上手に付き合っていけば、普通の人と変わらない人生をおくること、普通の人と変わらない寿命の確保も難しくありません。四季を感じながら、1年、2年、そして5年、10年、20年と月日が流れ、毎月がんばって通院している患者さんが
“また今年も元気にきれいな桜が見れました…”と、穏やかで心和む在り来たりな会話に、いつの間にか、医療スタッフと患者さんの間に信頼関係が築かれているのに気付かされますが、これが糖尿病治療の醍醐味ではないかと思う今日この頃であります。
合併症に悩まされず、毎年変わらず元気な顔を見せてくれることを心から願い、体と心の両方からケアしていきたいと考えています。