糖尿病合併心不全の新しい発症メカニズム
2018年07月31日
今回は糖尿病と心不全の関係性の新しい考え方について述べたいと思います。従来は、糖尿病患者さんが合併しやすい高血圧症や脂質異常症、また喫煙習慣などが原因で、心臓の冠動脈を閉塞させる病態、すなわち心筋梗塞を引き起こし、すると、心臓の筋肉がダメージを受け、収縮能が低下し、最終的に血液を全身に送ることができなくなる心不全に至ると考えられてきました。この一連の流れを食い止めるために、動脈硬化予防の観点から、血圧、脂質の管理、禁煙指導が血糖管理よりもむしろ重要であると考えられてきました。
しかし、図にあるように、メタ解析では、HbA1cが1%の上昇で、糖尿病患者さんの心不全のリスクは15%増加することが分かり、すなわち、糖尿病患者さんの心不全の発症は非常に血糖値に依存することがわかったのです。これだけ血糖依存性が強いとなると、動脈硬化が関係するというよりは、むしろ高血糖単独で病状が進展する糖尿病性細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)を彷彿とさせます。
実は、この糖尿病に合併する心不全は、心筋梗塞とは無関係なものも多く、すなわち、心臓の収縮能が保たれているものの拡張能が障害されている拡張不全型心不全(HFpEF)と言われる病態が明らかになってきました。この新しいタイプの心不全は、心臓の毛細血管内皮細胞の障害で起こるため、まさしく、血糖依存性細小血管障害に合致するわけです。この拡張不全型心不全に対しては、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬が持つ水利尿作用が治療に有効であることも分かっています。
我々は、高齢者糖尿病の予後を悪化させるこの拡張型心不全を意識しながら、糖尿病患者さんの診療に臨む必要が出てきた、ということになります。