癌発症予防にも睨みを利かせる糖尿病治療を目指す
糖尿病患者さんの死因の第一位は癌であり、近年の高齢化の影響もあり、その割合は実に38%にまで上昇しています。従って、糖尿病患者さんにおいても、常時、癌の発症を予測しながら治療することは大切なことです。今回は糖尿病治療薬と癌について述べたいと思います。
糖尿病で増える癌は、何といっても肝臓癌です。近年、増加が著しいNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)が、肝臓癌の発生母体と考えられます。脂肪肝といえば一般的には良性疾患と思われがちですが、実は糖尿病に脂肪肝が併発すると、高率(約10人に一人)にNASHに至り、やがて、肝硬変、肝臓癌へと進展していくことがわかってきました。ですから、糖尿病患者さんにおいて、NASHを診断することが重要ですが、長い間、これは肝生検をしないと難しいとされてきました。しかし近年、NASHの診断のスクリーニングにFib4 indexが用いられるようになりました(Fib4 index≧2.67は、肝生検が必要)。このNASHには糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬、チアゾリジン誘導体やSGLT2阻害薬などが有効であるとされており、疑わしい患者さんには積極的に投与するべきと思います。
次に食生活の欧米化に伴い日本でも急増している大腸癌です。実は、メトホルミン低用量(250mg)を投与するだけで、大腸ポリープの再発を40%抑制したというデータが日本で発表されました。メトホルミンは癌遺伝子であるmTORC1を抑制することで癌発症予防になると言われています。ですから、最近はDPP-4阻害薬などにメトホルミンを少量加えた合剤が次々と発売されており、高齢者に対しても、なるべく使用するようにしています。
その他、GLP-1受容体作動薬は、前立腺癌の発症予防に、一部のSGLT2阻害薬は消化器癌の予防にいいというデータも出てきています。
るのではなく、癌発症予防にも睨みを利かせる糖尿病治療を目指すことは、糖尿病患者さんの生命予後改善に大きく貢献できるものと確信しています。