糖尿病治療は臓器保護を重要視する時代へ
高齢者においては、HbA1c8.0%未満では、HbA1cがいくつであっても、患者さんの予後に差がないなど、多くの臨床データをもとに、海外では、高齢者糖尿病の至適HbA1cは7.0~7.5%、つまり目標上限が7.5%と緩和されました(フレイルなどの老年症候群がある場合は上限8.0%)。本邦でも、高齢者糖尿病に対して、HbA1cの基準を緩める方針になったのは周知の通りです(詳しくは2016年12月の掲載記事を御参照下さい)。
これらの背景になった考え方は、病歴が長い高齢者糖尿病の治療の主眼は、血糖コントロールよりもむしろ、糖尿病で侵されやすい臓器、すなわち、脳・心臓・腎臓などの主要臓器の保護であるということです。なぜなら、高齢化社会を迎え、高齢者糖尿病は、脳梗塞や認知症、心筋梗塞や心不全、また腎不全から透析、これらに至る症例が多く、これらの病態が糖尿病患者さんの予後を非常に悪くすると考えられているからです。
以前、”大血管障害予防に主眼が移りつつある2型糖尿病治療”という記事を書きましたが、これまでは、低血糖を起こさず、体重を増やさない治療が、心筋梗塞などの大血管障害を予防できると信じられていました。DPP-4阻害薬はまさに、その典型的な薬剤ですが、確かに動脈硬化の進展を遅延させる作用は確認されましたが、糖尿病患者さんの臓器保護や予後改善は、短期間では証明できませんでした。効果が発現し始めるのが仮に10年以上、これでは、高齢者にとってなかなかベネフィットが得られません。
ところが、最新の糖尿病治療薬、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬にはその薬剤自体に、速効性に臓器保護が期待できるエビデンスが出たため、循環器内科や腎臓内科の先生までがこれらの糖尿病治療薬に対して、にわかに関心を寄せ始めています。つまり、高齢者の臓器保護を考えた場合、速効性のある薬剤を使用することは非常に意義があると考えます。
従って、当院では、高齢者の臓器保護を多いに意識しながら、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などを実臨床に役立てていきたいと考えています。