低血糖の注意喚起
一般に血糖値が60〜70mg/dl未満になると、低血糖による臨床症状が出現します。発汗や動悸、手足のふるえなどの交感神経症状が典型的な症状ですが、血糖値が50mg以下になると、脱力、集中力の低下などの中枢神経症状が現れ、さらに糖分を摂取できない状況が持続しますと、意識障害に陥ります。この場合、第三者の助けが必要になってきますが、これを重症低血糖と定義します。
重症低血糖は、遷延(せんえん)すればするほど、脳に重大で不可逆的な後遺症を残します。とくに認知症は、たった1回の重症低血糖でも急激に悪化すると言われており、高齢化社会では重大な問題です。多くの糖尿病患者さんは、このような低血糖の症状に不安や恐怖を覚えた経験があるはずですが、糖尿病と付き合っていくうえで、さらに知っておくべき留意点があります。
最近の研究では、低血糖時、交感神経が刺激されることによって分泌されるアドレナリンなどのインスリン拮抗ホルモンは、血液の凝固を誘発したり、動脈硬化を促進させたりする働きがあり、結果的に心筋梗塞や脳梗塞などの大血管障害を増加させることが知られています。さらに、低血糖は、転倒のリスクを増やしますので、骨折や外傷を生じやすく、これらを契機に寝たきりになる高齢の患者さんが非常に多いこともわかってきました。
インスリン分泌系促進薬(とくにSU薬)やインスリン注射(とくに超速効型、中間型)が低血糖を起こしやすいことは周知されていることですが、とくに腎機能の低下がある場合は、SU薬などの経口薬の作用が遷延するので、重症低血糖のリスクが増し、我々にとっても処方する上で十分注意を払う必要があります。また、認知症がある患者さんでは薬の種類や量を間違えやすく、服薬遵守(じゅんしゅ)できないことが低血糖の原因となりますので、そのようなケースでは家族への服薬確認や指導が必要不可欠です。他には、アルコール摂取も低血糖の要因のひとつとなります。たとえ少量でも、肝臓の糖新生抑制することで、低血糖を起こしやすくなりますので注意が必要です。