膵β細胞保護を意識した2型糖尿病治療が求められる理由
日本人の膵β細胞機能(インスリン分泌能)は欧米人に比べるとやや弱く、過食や運動不足などの生活習慣の乱れによる負担増加によって、このインスリン分泌機能が破綻し、糖尿病が発症すると考えられます。日本人はあまり太っていないのに、糖尿病が発症しやすい原因はここにあります。2型糖尿病は膵β細胞機能の低下とβ細胞の量が徐々に減っていく進行性の病気で、これこそが糖尿病を原則的に完治させることができない大きな理由のひとつです。実際に、食事、運動療法を遵守することで薬物を必要とせずに正常化していた血糖値が、いつの間にかした悪化経験をもつ患者さんも少なくないと思います。膵β細胞機能が低下すればするほど治療は難渋していき、良質な血糖コントロールが得られにくくなるので、内因性インスリン分泌がどれくらい残存しているかは、とても重要な糖尿病治療選択の指標となります。
いくつか例を挙げてみましょう。インスリン分泌を刺激する薬剤、特にSU薬は、膵β細胞に過度のストレスをかけて疲弊させますので、いずれは、インスリン治療を余儀なくされる治療薬であり、あまり糖尿病発症の初期段階ではお薦めできないというのが専門医の大半の意見です。最近出たインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1アナログ製剤)は、むしろβ細胞を外的負担から保護すると考えられており、β細胞の機能が低下しているタイプの日本人には頻用されています。これらの薬剤の投与によってβ細胞機能が実際に回復するのではないかと期待されていますが、残念ながら、まだその証拠は報告されていません。インスリン抵抗性改善薬(ビグアナイド薬、チアゾリジン誘導体)にも、膵β細胞に対する負担の軽減作用がありますし、持効型インスリン注射は夜間の基礎インスリンを十分補うことで早朝空腹時血糖値を低下させるため、膵疲弊の軽減に繋がるのではないかと考えられています。
多くの糖尿病治療薬が使用できるようになりましたが、患者さんのβ細胞の残存機能に合わせた、膵保護効果のある薬剤を中心に選択していくことが、現在の2型糖尿病治療に求められている新しい考え方と言えます。