糖尿病において、最適な治療とは何ですか?
2型糖尿病の究極の治療目標は、糖尿病でない人と何ら変わりない、自立した健康寿命を全うすることであることに間違いありません。しかし、それを目指すには、いずれの治療プログラムにおいても、生活習慣の改善を主眼においた教育を基本とし、必要に応じて薬物治療で補い、患者さんに応じたアプローチにより治療方法や目標を個別化するべきという新しい概念、これを、欧米では patient centered approach(ペーシェント・センタード・アプローチ)と提唱されていますが、この重要性が強調されています。
食事、運動療法が重要なのは無論のことですが、我々が最も責務を負わなければならない薬物治療を考えるとき、血糖だけでなく、体重管理、β膵細胞保護、低血糖、血圧・脂質管理、認知症など、いろいろな面に配慮する必要があります。これらをすべて達成することは、簡単なことではありません。例えば、1日4回注射するインスリン強化療法は、血糖管理に優れますが、血圧が上昇し、体重や低血糖が増え、認知症のリスクも高める危険性があります。だからといって、これらすべての問題を解決しようとすると、高額な薬物の治療費がかかるなど、原則的に治癒しない糖尿病と付き合っていく長い道のりの中では無理が生じてきます。従って、我々医療者側には、メリハリの利いた治療が要求されてきます。例えば80歳以上だったら、血糖管理は甘くして、その代わり、低血糖や先号で書いた認知症を防ぐ治療を優先したり、まだ若く小さなお子さんがいる肥満患者さんは、脳や心臓といった大血管症を発症させないように体重管理に重点を置いたり、β細胞機能の落ちた痩せた患者さんであれば、今度はインクレチンなどの薬物を選択してβ細胞保護に努めたり、また心筋梗塞の既往がある患者さんは、あまり厳格に血糖をコントロールすると、低血糖を起こし、逆に心筋梗塞を再発するリスクが高くなるので、HbA1cの設定を少し緩くする、などの工夫が必要になってきます。このような patient centered approach(ペーシェント・センタード・アプローチ)は、例を挙げればきりがありません。日本糖尿病学会が、熊本宣言2013として発表した治療目標の変更は周知のとおりですが、個々の患者さんに合ったHbA1cを設定し、その目標に向かい最も適切な手段を選択する、ということが非常に重要なのです。