Q&A 第57回〈糖尿病と認知症① ?なぜ、糖尿病で認知症が多くなるのか?〉
高齢化社会に伴い、認知症患者さんが増加し、日本社会における重要な課題となっているのは、周知のとおりですが、最近、糖尿病患者さんは認知症の発症率が糖尿病のない人の約1.6倍であることがわかり、糖尿病が、認知症患者さんの増加傾向を大きく牽引していることがわかりました。以前にも認知症の話題について触れたことがありますが、今回は、この糖尿病と認知症をテーマに、もう少し詳しく解説したいと思います。
なぜ、糖尿病では、認知症が増えるか、その理由は、主に4つ挙げられます。1つ目は、脳細胞におけるインスリン抵抗性です。インスリンは、脳に対して、ブドウ糖の分解を促進して、エネルギー源であるATPを産生しますが、このインスリンの働きが鈍ると、脳へのエネルギー供給が不足し、脳神経にダメージを与えます。2つ目が低血糖です。糖尿病患者さんは、低血糖をしばしば起こしますが、これも同様に脳細胞へのエネルギー供給源であるブドウ糖が不足することで、脳に重大なダメージを与えます。3つ目は、高インスリン血症が長く存在すると、インスリン分解酵素(IDE)が体内で消費されます。実は、このIDEは、βアミロイドという認知症を引き起こす引き金となる物質の分解酵素でもあるため、IDEがインスリンの分解に消費されると、βアミロイドの分解低下を来たし、脳細胞への蓄積が増えるとされています。4つ目は、脳血管障害です。糖尿病患者さんは、細い脳血管に動脈硬化が起こり詰まってしまう、ラクナ梗塞と呼ばれる、小さな脳梗塞が発症しやすいのが特徴です。ラクナ梗塞が多くなると、血流が悪化し、脳細胞が次第に蝕まれていきます。βアミロイドが蓄積するアルツハイマー型認知症に対して、これを脳血管性認知症と呼びます。
このようなさまざまな原因が重なり、糖尿病患者さんは、認知症が増えていくのです。