Q&A 第32回〈2型糖尿病のインスリン治療〜中編〜〉
2型糖尿病患者さんでは、インスリンを作って分泌する細胞、すなわち膵臓のβ細胞の数が糖尿病発症時には約半分になっており、その後、約5分の1まで減ってしまう患者さんは少なくありません。その影響で、十分なインスリンが分泌せず、血糖が下がらないことがわかっています。これは、生活習慣の乱れによって、長年に渡りインスリンを大量に分泌させ、β細胞を酷使してきた結果です。従って、この数の減ってしまったβ細胞を保護してやることが、糖尿病患者さんの治療において、非常に重要なテーマと言えます。その意味において、毎食後に分泌されるインスリンの肩代わり的な意味で、毎食のたびにインスリンを注射する強化療法は最も有用な治療であり、β細胞の数を少しでも温存したいという発想から、なるべく早期から強化療法をするべきだ、という意見も多いのは事実です。
そもそもインスリンは、本来、膵臓から分泌され、大部分は肝臓において消費され、体循環に回るインスリンはほんの少しです。一方、皮下注射のインスリンは、まず体循環を回ってから最後に肝臓や筋肉に到達します。従って、同じ血糖を下げるにしても、皮下注射のインスリンでは、その血中濃度を著しく高くする必要があります。ここで重要なことは、この体循環へ回るインスリンが、実は曲者であって、高インスリン濃度になりますと、動脈硬化を促進させたり、脂肪細胞を肥大化させたりすることがわかっています。多くの大規模臨床試験で、強化療法によるインスリン治療が、血糖を厳格にコントロールできるにも関わらず、低血糖、体重増加などの影響で、脳梗塞や心筋梗塞を減らす効果がほとんど認められなかった原因はここにあります。まさしく、インスリン注射は、大血管障害という観点からは、諸刃の剣なのです。<次号へ続く>